商品を扱うような会社であれば、決算書を作成する際に棚卸資産の評価損を計算して事業年度末時点での正しい在庫額を算出しなければなりません。
評価損は勝手に決めることはできず、決まった計算方法で算出する必要があります。評価損の計算方法には仕入れの際に実際に支払った仕入単価か、期末(3月末)時点の時価(市場価格)を利用する方法が存在します。
仕入単価を基準に計算する方法は「原価法」と呼ばれ、市場価格で計算をする方法を「低価法」と呼びます。
「低価法」とは
「低価法」は計算方法が非常にシンプルです。もしも3月末の時点で仕入価格が値下がりして仕入価格よりも安い費用で同じ商品を仕入れることができるようになった場合に、安い方の金額を使って在庫額を算出することが可能です。
逆に仕入れ後に市場価格が上昇してしまった場合には、実際に支払った安い仕入価格を使用することができます。
「原価法」とは
「原価法」で在庫額を計上す場合には、6通りの計算方法からいずれかを選ぶことができます。原価法の計算方法は、個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・売価還元法・最終仕入原価法があります。
「個別法」
「個別法」は、仕入時に実際に支払った価格で評価する方法です。仕入の時期や購入した数量ごとに価格が変化するので、計算をするのに手間がかかります。
「先入先出法」
「先入先出法」は、商品を仕入れた順番に販売または消費されると考えて計算をする方法です。例えば4月とか5月のように早い時期に仕入れた商品は既に売れてしまい、3月末には倉庫にそれらの品物が残っていないと考えます。同一の製品であっても3月末の時点で倉庫に保管してある商品については、直近に仕入れた物であると考えて在庫額の計算をします。
この方法はもしも仕入額が常に一定であれば評価損を計上することができませんが、デフレで仕入れ値が下がるような場合には評価損が大きくなります。逆にインフレで物価が上昇するケースであれば、原価が下がってしまいます。
「総平均法」
「総平均法」は事業年度の前半(期首)の棚卸資産を取得する際に支払った総額と、年度内に追加で仕入れた際に取得額の総額(和)を計算して在庫数で割って評価する方法です。
この方法は計算がシンプルですが、事業年度の最終仕入が完了するまで在庫額が確定しないというデメリットがあります。
「移動平均法」
「移動平均法」は仕入れを行う度にその時点で残されている在庫と新たに仕入れを行った分の平均単価を計算する方法です。
この方法だと、仕入れを行うごとに計算をする必要があります。計算が面倒ですが、仕入れを行うごとに現在の状況を把握することができるというメリットがあります。
「売値還元法」
「売値還元法」は種類が近い商品のグループを考えて、3月末の期末時点で販売価格の合計に原価率を乗じて計算をします。
計算に使用する「原価率」は、「事業年度の前半までに仕入れた際の取得金額の合計額」を、「事業年度の後半から年度末に販売した価格の合計」で割って求めます。
「最終仕入原価法」
「最終仕入原価法」とは、年度末に一番近い仕入れ時期の仕入れ価格を取得金額とみなして計算をすると方法で、計算方法が簡単です。在庫額の評価方法を選択しなかった場合には、この方法で計算が行われます。
6つの在庫評価方法どれを選ぶか
在庫の評価方法は6通りの方法が存在しますが、計算方法が違うので同一の商品・量でも金額に差が生じることがあります。
評価額が一番少なくなる方法で計算をすることで、原価を高く算出して粗利益を下げることが可能です。
いずれの計算方法も、時間が経過するとインフレや商品が陳腐化して価値が下がるという前提です。商品の価値が変化せずに仕入れ値が常に一定であれば、どの計算方法でも評価損を計上することができません。
それでも事業年度の後半に大量の商品を仕入れたり、問屋に値引き交渉をして安くしてもらうなどして、「評価損」を計上することができる場合があります。
棚卸資産の評価損を計算する際は、商品自体の品質に変化がなくて普通に販売することができる場合に適用されます。ところが仕入れた商品が何らかの理由で劣化するなどして、著しく価値が下がってしまうことがあります。
例えば、地震や洪水・津波などの自然災害が原因で保管してある在庫品が物理的に損傷してしまったり、流行性が強い商品で時代遅れになってしまうようなケースが考えられます。
廃棄処分をすれば損失額を確定することが可能ですが、価値が下がってしまった商品でも大幅な値引きをすれば売れるケースもあります。
このような場合に実際に販売をして売値が判明し、仕入れにかかった費用を差し引くと赤字になるとします。
価値が下がってしまった商品を全部処分しなくても、年度末頃にある程度の量を販売することで実質的な価値を算定することができます。
通常はこのような方法で評価損を計上することは認められていません。それでも大規模な災害や一時的な流行が発生した場合にのみ、例外的に評価損を計上することが認められる場合があります。