在庫の量で利益が決まる
製造業や製品を仕入れて一般客や別の会社に販売するような形態の会社であれば、販売予定の商品をストックしておかなければなりません。
ただし、在庫(商品)は資産ですから、必要以上の在庫を持つと法人税が高くなってしまいます。単純に考えると、売れずに倉庫に商品を保管していても会社にとっては何の得にもなりません。
つまり、商品を継続して販売している場合には、決算期時点における倉庫の中の在庫の量(金額)によって課税される利益の金額が変化するということになります。
一般的に何かの商品を販売している会社であれば、粗利益は次の計算式で決まります。
粗利益=事業年度中の売上額-原価
実はこの計算式の「原価」には、在庫額も関係しています。
原価=期首棚卸金額+当期仕入金額-期末棚卸(在庫)金額
棚卸金額の計算方法は、単価×保管してある数量です。
期首棚卸金額とは事業年度の最初の在庫額で、期末棚卸額は3月末の在庫額のことです。最初の計算式を見ると、「原価」の金額が高ければ粗利益が下がることが分かります。
粗利益を下げるために「原価」の金額を高くするひとつの方法は、事業年度末時点での在庫額を減少させることです。年度末の在庫額を減らすことにより原価が上がり、粗利益が下がって法人税を節約することができます。
倉庫に保管してある商品のストックが減少すると原価が上昇するわけですが、将来に減った分を補うために購入しなければなりません。
会社の中には原価を上げる目的で、意図的に帳簿を操作して在庫額(期末棚卸金額)を少ないかのように計算して税金の申告をするケースがあります。
帳簿を不正に操作して在庫量を少なく計算することは脱税行為なので、税務調査でこのような行為が発覚すると重加算税を支払わなければならなくなってしまいます。
実は帳簿を違法に操作をしなくても、合法的に在庫額(期末棚卸金額)を少なくして原価を高くして節税を行う方法が存在します。
合法的に在庫額を少なくする節税方法
合法的に在庫額を少なくする方法は物理的に倉庫に保管してある量を減らすか、1単位(個)あたりの評価額を下げることです。
物理的に倉庫に保管してある商品ストックを少なくする手法は
①赤字覚悟の「決算セール」で安売りをして処分をする
②売れない商品を販売せずに廃棄処分をする
のいずれかです。
毎年2月~3月頃になると多くのお店で「決算セール」が実施されて大幅な値引き販売が行われますが、これは年度内の売上アップと共に在庫額を減らす目的があります。
値引き販売をして処分をしたり廃棄処分を行うことは、物理的に在庫を減らす有効な方法です。これらの手法であれば確実に在庫額を減らして原価を上げることができますが、損失を被る場合もあります。
例えば、3月31日までに商品のストックを減らすために、値引き販売を行うお店がたくさんあります。このように赤字覚悟の大安売りセールを行えば商品のストックは減らせますが、安売り販売をすることで利益が少なくなってしまいます。
また、スタッフの人件費も余分にかかってしまいます。粗利益を減らせば節税ができますが、会社の純利益も減少してします。
売れない商品の廃棄処分を行う場合には処分費用を計上しなければならず、節税効果よりも利益が減少したり経費が加算されることによってトータルでマイナスとなることがあります。
安売りなどで処分をしたり廃棄を行う行為は相応のデメリットも存在するので、節税効果と損失のバランスを考慮して実施しなければなりません。
棚卸資産の評価損という節税
物理的に倉庫に保管してある商品の量を減らす以外にも、帳簿上の在庫額を減額する方法が存在します。保管してある商品の数が変わらなくても、1単位あたりの価値が減少してしまうとトータルの在庫額が低くなります。
例えば、お店で販売をする目的で、卸値が1個あたり1万円の電化製品を100個仕入れたとします。この場合の在庫額は100万円(10,000円×100個)となります。
ところがその後にモデルチェンジが行われて、新しい型の製品発売されてしまったと仮定します。すると既に仕入れた旧モデルの製品は、以前よりも安い費用で入手することができるようになります。
その代わりに、3月末の時点では仕入れた時よりも値引き販売をしなければならなくなってしまいます。この商品を売って得られる利益が値引き分だけ減少してしまい、棚卸資産の評価損が発生して1個あたりの実質的な価値が半額の5千円に減ってしまったとします。
この場合の在庫額は50万円(5千円×100個)となり、倉庫に保管してあるストックの数が変わらなくても50万円相当の資産価値が減少したことになります。
仕入れてから一定期間が経過すると商品の価値が下がって評価損が発生することがあり、決算時に評価損を考慮して計算したら原価が上昇します。
このように評価損を計上する方法であれば、物理的に倉庫に保管してある商品を減らしたり廃棄処分をしなくても帳簿上の金額を変えることができます。評価損の計上は合法的で、違法行為ではありません。ただし決算書を作成するために評価損を決める際には、一定のルールにしたがって計算をしなければなりません。